きのこ狩りの残党

私が見ているアイドルの世界

全集中無呼吸──目の前で阿部亮平さんを見た話


基本的に、自分には運がないと思って生きてきた。

厳密に言えば「ない」というよりは「偏りがすごい」。運がない期間が長くて、あるときたま〜にポッとあるくらいの体感。


今年の初め、おみくじを2回引いた。名古屋のうさぎの神社と京都のうさぎの神社。この時点で、干支を仰いで験を担ぎたがりすぎているのがわかる。

そしたらそれが両方大吉で、「お?幸先いいね〜」と思っていたら最近、確かになんだか運気が上がっている気がする。御うさぎ様ℬℐ𝒢 ℒ𝒪𝒱ℰ──


まず、今年は歌舞伎が当たった時点で運が良い。良いなんてレベルじゃない。

滝沢歌舞伎ZERO FINAL」、もろもろの状況から唐突にファイナルとなった今回の公演数やライビュがあること(で席が潰れるはずで)、歌舞伎会やぴあ、いろんなところがチケットを持っている時点でFCにどれだけの座席の割り当てがあったのか。

例えばお菓子を作るときに入れる少量の塩くらいか?お菓子作れないくせにわかったようなことを言う、そんな少量の塩の体感でチケットが当たった。


いっつも当落が出たら見れるもんはさっさと見る、待てないイラチのおっさんの人格を飼っている私でさえ、今年の歌舞伎の当落は緊張して、見るのに小一時間かかった。

「まぁ当たらんで元々やで、これはさすがに」と自分に言い聞かせ、半ば諦めの境地で見てみたら……第3希望で当選していた。

第3希望?

メールも来た。「おめでとうございます!第3希望で当選です!」

第3希望?


なんやかんやと積み重ねてきたヲタク歴と換算しても、第3希望で当たったことなどあったかな。塩ひとつまみが効き過ぎてない?

てか、よく第3希望まで入れてたよねという話で。第3希望で当たることなんてないやろ〜と思いつつ、せっかく枠があるなら入れとくかと、たまたま入れた気がする。こういうこともあるんやな…入れといてえらかった。


もう1つびっくりしたのが、仲良しの渡辺担のくまも第4希望(いつでも)で当選していて、しかも同じ日の、同じ公演。くまに至ってはこの日の公演自体を入れてないのに。

今年、一緒に申し込んだわけでもない仲良しの友達と同じ公演が当たるのってどんな確率!?阿部さん計算してくれない!!?!?


Aぇのガチネバを観てからは絶賛「大晴くんかわいいの天才!」の時期を過ごしていたので、3月末、歌舞伎のチケットが発送されたことも知らずにボーッと暮らしていた。ちょうどAぇの全ツ直前だったのもある。

いざチケットが届いた日、仕事を終えてへろへろになった会社員の顔で、「当たっただけでありがたいナァ」と青い封筒の封を切った。

演舞場はどこの席でもよく見えるから、どこでも!と思いつつ、いうて第3希望やし、話題の窓口引換席でもなかったから後列かな?とか、私と歌舞伎といえばこの5年、2階席に座った回数が多い圧倒的2階席ウォーマーだったので2階かな?とか、前列に期待はしても前列にいる自分の想像はできなくて、あわよくば1階席で臨場感ある風景が見たいかな?とは思いながら。

めっちゃ煩悩。


私の名前が入っている桜色のチケットに目を落とす。目を落としてから3度見した。「正面右扉」「1階1列」…どこ?…最前列なわけないやろ、と公式の座席表を見て、右扉?サイドか?いやそれ桟敷や…と、チケットとスマホをキョロキョロキョロキョロ…止まらない何度見?

示されている席がやっぱり1列目にしかない。ホンマにここ?この数字のここ!?にわかには信じがたい…最前なんですけど!!!?!?!?!???


時には2階席をあっためながら、時には3階の天空から、どんな人が最前に当たるのかと思ってきたけど、うわぁ…1階1列、本当にあるんだぁ…。


うれしいけどスケールがでかすぎて、それよりなんかちょっと怖くなって、テレビ台の引き出しにチケットを突っ込んだ。そして、私が入る公演まで約1ヶ月、最前と思うと普通に生活できなさそうだったので一旦忘れた(忘れた)。





歌舞伎のことはすっかり忘れて日々を過ごし、乃木坂ちゃんのアンダーライブでかわいい女子たちのエンターテイメントを浴びた帰り道、環状線に乗っていたら、くまから「これ、大丈夫そ?」「目の前じゃない?」ってLINEがきた。

そういえばその日は歌舞伎の初日で、一緒にツイッターのレポが送られてきている。客降りがあるらしく、阿部さんの来る位置がどうも私の席の前あたりっぽい。


びっくりして、持ってたスマホ1回落とした。


なに?どういうこと?目の前に阿部さんが来るってこと!?

考えるまでもなく無理だ無理だよ!!!!嘘だろ!!!!!?こんなことある!!!!!!!!?

でも私の見る公演は後半どころか千穐楽前日なので、途中何がしかの理由で客降りがなくなったりとか、場所が変わったりとか、そういうことだってあるかもしれない。

阿部さんが来ると思ってたのに来なくなったとか、多分耐えられない。


だから、一旦忘れることにした。

昔から、傷つかないための危機管理能力がものすごく高い。

そもそも平常心でいられない席なのに、さらに自担が目の前に来るとか言い出したら、もう、生き方わからんくなりそうだとも思った。

だって、そんな上手い話、ある?1列目に座れる上に目の前に自担来る、ある???こうなってくると、塩ひとつまみどころの話ではない。

一旦忘れるのは得意であり、しかもちょうどAぇの全ツが間にあったので、また忘れた。たまーに思い出しては震えて忘れた。


そんな私もライビュを観に行こうか、演舞場で初めて全体像を観てびっくりするかどうしようかなと思っていたけど、これまでの歴史を振り返る内容らしいので予習しておこうと決めた。

私の歌舞伎は「ZERO」初年度からなので、それより前のことはほとんどわからないけど(1枚だけ円盤持ってる程度)、きっと少しなりとも前情報を入れている方がおもしろい。

自分が入る4日前にライビュへ。客降りはなくなっていないし、位置も変わっていないらしかったので、それも確認しようと思っていた。「私の前らへん」のどこらへんに阿部さんが来るのか。


ライビュを見た感想は「おおぅ、なるほどわからん最高!」で、初めて歌舞伎を観たときの意味のわからなさと同じ感情が込み上げてきてうれしい。意味わからんジャニーズエンターテイメン!とわくわくしたあの日。

そして私にとっての懐かしの演目も見られそうで、それもとても楽しみになった。


肝心の客降りのシーンは、映像ではほとんど暗くてよくわからず、でも、いやこれ、私の真ん前では?

そんな印象を持ったけど、願望でそう見えてるのかもしれないと思って、過度な期待はしまいこんだ。ネガティブと危機管理意識の併せ技。とはいえ、とにかく少なくとも斜め前にはくることが確実になった。下手したら真ん前。やばくない!?自担、真ん前、やばくない!?

ハイタッチ会がご時世的になくなり、阿部さんが目の前に来る日など、一生こないのものだと思っていた。ハイタッチしたかったなぁと、当たった気満々でハイタッチ会の亡霊をキメてきた丸4年ほど。

それがここへきて、えっ!?これは当日マジで前らへんに阿部さんがくることがほぼ確で、ハイタッチとは趣が全然違うとはいえ、夢が叶いそうでわくわkというか吐きそうになった。なにその距離感なに。





新橋演舞場、1階1列30番台の席は想像以上に舞台が近くて震えた。

上手側ほぼ端っこの席で、斜めに全体を見る。私と舞台の間に遮るものがなにもない。

私の脳とメンタルは完全にびびってしまい、開演後、今ノリにノッてるアイドルたちで溢れる豪華絢爛な視界に、顔の左半分がヒクヒクして止まらなかった。突然のヒクヒクやめれる?

身体が突発的な桃源郷に耐えきれてない。G(重量)ならぬT(桃源)がかかっとる。脳よ、落ち着いてちゃんと信号を発信してくれないか。


客降りがあるのは後半、組曲〜花鳥風月が終わったあと。

自分でレポを見たりとかは全然してなかったけど、ボディソープのにおいがするとか無臭とか、暗転しているときに汗を拭っていたとか、なんかそんな話をくまから聞いていて(情報源のすべてがくま)、えっ阿部さんの匂い!!!?えっ!!!!?

それを思い出して、開演直後から鼻がずっとムズムズしていたことを後悔した。今から全力で鼻かみたい。

組曲・花鳥風月といえば私にも思い入れのある演目で、しかもザムビの花鳥風月の衣装だと聞いていたからとても楽しみにしていたのに、「あぁぁこの後いよいよ阿部さんが…」という思いが初雪とメルティーキッスのようにちらついてしまった。煩悩!チョコレート!


花鳥風月が終わり、黒い幕が目の前を通って暗転。客降り前にみんなスリッパを履くらしいと聞いていたけど、シルエットだけ見えているSnow Manの人たちが足元を幕で目隠ししながら、確かにスリッパを履いていた。みんな上体をあまりブラさずに履いていて、さすがエンタメに生きる人たち…と妙に感動する。


いよいよ阿部さんが近くに来るらしい。そう思うだけで注意力がいつも以上に散漫になりそうだった。しっかりしろ梅子、阿部さんを一生分見ようぜ!

「一生分」、大袈裟なようで本気。

だってこんな距離感で阿部さんを見られることなんて、きっともうない。いや知らん、あったらうれしい。

でも限りなく二度とないと思われるそのチャンスを、空気に呑まれて棒に振ってはいけない。一生分!


Snow Manが上下に分かれて、舞台前に据えられた階段を降り始めた。その階段さえ1.5m先くらい。そこやん。寝転がったラウール1人分より近いやん。

どんな順番で来るのかさえわかっていなかったけど、こーじ→佐久間→阿部さんの順らしい。真ん前をこーじや佐久間くんが通っていったのに、私の目は階段を降りる前からすでに阿部さんを見ていたので、一瞬もさくこじを見てない。こんな機会ないんやから見ればよかった(見ればよかった)。


スッと伸びた背筋でスッスッと歩く阿部さんが近付いてきた。私の左の席の前で止まるかn…止まらなくね?あれ?…あ、私を越えて右の前kちゃうちゃうちゃう!!!!!!!

私 の 前 !


私の前で止まっちゃったぁぁあぁあうあああああ!ああああああああああ!!!!!!!!

きちゃったぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!

いやちょっと待って嘘でしょ、ライビュ見て「私の前ちゃう?」って思ったよ、確かに思ったけどいやいやいやちょっと待一生分。一生分見よう。負けるな。


阿部さんが目の前に来たとき、右目のコンタクトがカタカタカタっとずれようとした。アイドルを目の前にしたとき、いっつも右目のコンタクトずれそうになるけど、右目お前はなんだ。意思を持っているのか右目。落ち着け、落ち着けよ。



阿部さんが私の前に立ってから数秒遅れて、ふわっといい匂いがした。

なにこれー!!!!!!!!!!!

人生で匂ったことのない、全然知らない、上品で少し甘い、異次元のいい匂いだった。

アッッッ阿部さんこんな匂いさせて生きてんの?もうそんなの人類最終兵器の域では…?ノストラダムス…?こんな、こんな……

ボディソープでも無臭でもないその匂いを、悲しいかな今これを書いてる私は少しも思い出せない。きっとどこかで同じ匂いを嗅いでもわからない。だから文字だけの記憶。

あんないい匂いのもの、どこで買ってるんです…?


真ん前に立っている阿部さんとの距離は、例えば喫茶店で向かい合って座るくらいの距離感で、電車の向かいの座席より近い。バグだ。完全にバグやろ、こんなの。

身長178センチは私が座ってるのでわからなかったけど、通っていったさくこじの残像と比較すると背が高かった。


龍の演出のための客降りなので、ただ静かに自分の出番を待ってスタンバイしている阿部さんの、その視界に自分がかすっていると思うといたたまれなかった。なんかちょっともう、消えたかった。

特に目が合うようなことはないし、龍の方向に身体が向いているので向かい合ってるわけでもないけど、でも、阿部さんの視界の中に緑の虎ワンピのオンナが引っかかっていると思うと申し訳なさでいっぱいになった。こんなド派手なオンナが図ったかのように真ん前でごめん。図ってません!!!

これはもうご迷惑になってはいけないと、息を止める勢いで気配を消したかった。大好きなアイドルを前にしたファンというよりは、どちらかといえば森で熊に遭遇した人間。


けど、こんなチャンスは二度とあるかわからない、一生分見る!のオンナとして、気配を消そうと試みながら、右目のカタカタカタと闘いながら、どこ見る?なに見る?やっぱお顔かな!?と考えて、阿部さんのお顔をめっちゃ見た。


肌、キレイ──────


感想って、こんなものなんだと思い知る。自担を目の前にしても、これ。

でも本当にお肌がきれいだった。阿部さんは特別美容に興味があるタイプでもなく(私はそういうところがすごく好き)、でもいつもきれいなので、肌強いんだろうなと思っていた。近くで見てもキメ細かくて、なんか、、、好きでした。

あとは二重のきれいさとか、公演後半になって最初のセットされたそれとは違うほわほわした髪型が、左耳かけ、8:2くらいで髪がぐわっと右に持っていかれているその自然に出来上がった男らしい感じとか(耳かけ大好き眼福)、なんかそういうのをじっと見ていた。

暗転してスタンバイしている中で汗を拭う日とかもあったらしいけど、私が見たときは、ただ自分のタイミングを待っていて、その横顔があまりに私の大好きな「仕事人」(仕事を全うしているアイドル)の顔で、もうこれ以上浴びれないよ!くらいに阿部さんを浴びた。


私は阿部さんを好きになった理由の一つに「仕事人の顔を見たこと」があって、それは5年ほど前の帝劇ですの6が壁を登っていて(どんな演出だよ)、当時少し気になっていた阿部さんを防振で見ていたら、登り切ってきらきらピースをした後に、後から登ってきたふっかを引き上げた、そのときの顔が自分にスポットライトが当たっていない場面での仕事をしている顔すぎて、「す、好き!」とスイッチが入った。そんな経緯があった。

なので仕事人モードに弱い。


そんな職務全う中の阿部さんが目の前にいるわけで、しかも私は阿部さんの横顔が大好きで、耳かけも大好きで、ていうか阿部さん大好きなんですけど!!!!!?!?!?

舞台の下に阿部さんが立っていて、私の前には席がなくて、視界に阿部さんしかいない。私の見ている世界に阿部さんしかいなくて、恐れ多くも「私だけの阿部さん」が叶ってしまっている…!!?


𝓼𝓱𝓲-𝓷𝓾-𝓭𝓸…


(死ぬど)


ライビュで見た龍のターンは場内が暗くて、引きの映像がメインやったから何が起こってたのかわからずやったのと、今回もこの異常事態で、結局私の後方で何が起こっているのかわからないまま阿部さんを見ていた。

多分客降り後半のタイミングで照明が当たった阿部さんが、左手を龍(の方?もしくは光る玉?なんかそんなん落ちてきてたよな?)の方に伸ばした。ちょっと斜めを向いて上の方に手を伸ばすので、阿部さんの手で阿部さんの顔が見えなかった。稀有な状況。

「見えない!」と思ったら見えた。手、ちょっと下がった。

阿部さんの番が終わり、また暗転の中の仕事人を見ていたら龍のターンが終了。静かにスッスッと去っていった阿部さん。

体感全然短くない。じっくり見ちゃった。

自担が目の前にいるのを存分に浴びてしまった。


去っていく阿部さんをずっと見ていたら、手が震え出して、今?タイミングどうなのよ、となりながら両手を握りしめて、下手側の袖まで延々見ていた。帰り際の佐久間くんもこーじも全く見ることなく、2人のことはまたコンサートで見たいと思う。





阿部さん、めっちゃめっちゃかっこよかったぁ!!!!!!!!!!!!!

すごい!すーごいかっこよかった!!!!!!!!!!!!!!!!

この世に存在していた、本当にいるんや阿部亮平さん!!


この5年、コンサートや歌舞伎に行くたびに「本当に存在している!」と飽きることなく毎回噛み締めている右脳派感覚人間の私。何回見ても全然慣れない。

阿部さんが公演を通してパフォーマンスしている、その時間の中で起こることに対応している姿はテレビでは見られないもので、ああ阿部さんってほんとにいるんだすごいなぁと改めて感動した。

テレビの中にいるのを見ているのとは違う、リアリティを与えられたというか。


しかも今回、その阿部さんを目の前で見てしまって、スポットが当たってキラキラしてるときだけじゃない時間を目の前で溶かしてしまって、なんかもう言葉にならないけど、あんなにもかっこいい人が存在するという事実を全力でくらってしまって、なぜか息を潜めながら、阿部亮平さん(29)の等身大を目の当たりにした。


与えられた日、与えられた公演、与えられた席で目の前に自担が来るというのは、2023年最強のギフトだった。


まだ2023年春、の話。